壺の中見て

毒にも薬にもならない世にも奇妙なスタジオジブリ

会話のネタのよくある一つに「ジブリで何が一番好き?」という質問が存在する。

話の裾野を広げるにはいい質問だとは思うが、今まで出会って来た人の中でこの質問をしてくる人間ほど、実は全てのジブリ作品を観ていなかったりする。
大方、会話の流れで面白かった映画の話など、ある程度の文脈ありきでこの質問に辿り着くのだが、その頃には質問者の好みや映画や作品への造詣の深さが垣間見えている状態なので、相手次第では所謂「ジブリ作品ではあるものの世間一般的に観てジブリ作品という認知度が低い作品」は解答から除外されてしまう。
云えにこの質問は「ジブリで何が一番好き?」ではなく、「宮崎駿が監督した有名な作品の中で何が一番好き?」と解釈したほうが安牌であり、身のためである。
もし仮に、「キリクと魔女」とでも答えようものならばその瞬間、因果律の崩壊により世界は終末を迎える。「ルパン三世 カリオストロの城」とでも答える輩もいるだろうが、そもそもこの質問に対する解答の一作目にルパンを出す様な人間は質問の意味を理解していないバカかそれとも"解ってる"類の厄介な人種のどちらかなので、あなたが質問者の立場ならそんな輩とは早々に縁を切ることをオススメする。
 
ただ、世界の崩壊は防がねばならぬ。しかしこの泥沼のような終わりなき不毛な会話を続けるには相当の精神力を要するのだ。人間誰しもそこまで屈強な精神を持っているわけではない。あてもなく、方向も分からないのに永遠と砂漠を歩き続ける事が出来るだろうか。僕には無理だ。
という訳で”メジャー”であり”宮﨑駿監督”の”スタジオジブリ制作劇場アニメーション作品”の中でも特に毒にも薬にもならない凡庸な作品を3点紹介する。会話の流れから早急に別の話題に転換するには持ってこいの作品たちだ。このエントリーをコンパスに、終わりなき旅路からの脱出を切に願う。
 
 
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不思議な映画だ、何も語ることがない。ここまでメジャーな作品でありながらも、序破急の展開を一切記憶することが不可能な映画である。何度観たかも覚えてないが、一ミリも細かな内容が思い出せない。印象的な音楽もない。城が動くから何だというのだ。おそらく質問者もそうだろう、語るべきは木村拓哉の演技力(声)、それだけになることは間違いない。その流れから木村拓哉主演・世にも奇妙な物語の「Black Room」という作品をさらっと、嫌味なく紹介してみよう。

 

世にも奇妙な物語「Black Room」

15年前の作品だが、今でも新鮮に感じれるシュール且つスタイリッシュな展開にジブリなど脳内から一蹴される。質問者がもしも異性なら、博識でユーモラスなあなたに魅了され、たちまち二人は夜のBlack Roomへとしけ込む事になるだろう。

あとはタイミングを見計らって、我修院達也扮する火のバケモノのモノマネでもしておけば会話は終了だ。

 

 

風立ちぬ

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実在した航空技術者・堀越二郎をモデルに、その半生を描いた作品である。

血迷ったか宮﨑駿、当時のメイン購買層である女子供はそんなものをジブリに求めていなかっただろう。僕はこの作品を劇場で観たのだが、男の子を連れた母たちが鑑賞後、戸惑いの色を隠せず足早に劇場を去っていったのが脳裏に焼き付いている。手を引かれ去っていく少年達も、アクションムービー鑑賞後によく見るガキ特有の興奮などなく、何が起きたのか理解出来ずその瞳には影が落ちていた様に見えた。

そもそもジブリの話題において、基本的にネガティヴな発言は禁忌とされている。自称・ジブリ識者達は会話の中で、ネットなどで聞きかじったジブリトリビアを披露しようと躍起になる。なのでこのようなファンタジー要素が薄い実話的英雄譚には識者共の入り込む余地がないのだ。「アレはああいう意味、コレはこういう意味らしい」など言いようが無い、実に堂々とした気持ちのいい作品である。まごう事なき名作だ、ジブリというブランドであることを覗けば。

ただしこれは戦いである、相手が戸惑った瞬間を見逃すな、畳み掛けるにはこれだ。

 

世にも奇妙な物語「夜汽車の男」

 

風立ちぬと同じく、主人公自身の雄弁な語りとともに、自分自身との戦いを繰り広げる話だ。何故これを紹介するのか少々無理はあるが有無を言わせない大杉漣の演技に、堀越二郎を重ねてしまうことは必至である。見終わった後きっと、相手もあなたもジブリなどどうでもよくなり、食事へ向かう事になるだろう。

 

 

 もののけ姫

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最後は何にするか迷ったが、思い付かず面倒くさくなった。何でもいい。どれも同じだ。不毛な会話で得られるものなどたかが知れている。ナウシカを上げて漫画版でも読んでろとでも書こうかと思ったが、やめだ。もののけ姫だ。もののけ姫に食い付くような輩は昔、雑誌のSWITCHでジブリ特集を組んだ号に書かれているニッチな内容などを持ち出してくる可能性があるため危険度AAA+だ。個人的見解ではあるが、もののけ姫好きはアニメオタクが多い。そこで、対処法としてサンが自分自身を嗅ぎ「人間臭い」といったシーンがあるのだが、そこをフックにこの作品を突き出すのだ。ただし一歩でもタイミングを間違えれば、求めてもいないのに相手がショウジョウとかいう猿のモノマネをし始めるので、怒りに我を忘れ祟り神にならぬ様、気をつけなければならない。

 

岡村天斎監督「最臭兵器」 / MEMORIES

どうでもいいのだが、この作品を観た人間が山梨県民だった場合、異常なほどの食いつきを見せるらしいが山梨県民など知り合いに一人も居ないためそんな県の存在自体、都市伝説の類だろう。

これを見終わった後、きっと相手は「自分は臭いんじゃないか!?」と思い、早々にその場を立ち去るだろう。その瞬間、背後から一撃だ。

 

 

以上だ。

結局の話だが何にせよ映画や漫画など、作品を語れる相手がいるのはいい事である。僕もこのブログを誰かが読んだことで興味を持ってくれるかもしれないと期待しつつ、ジャンル問わずたくさんの作品紹介が出来ればいいと思っている。